ハニーランド 永遠の谷
トリプルアップ配給協力作品
2020年5月、アップリンク渋谷&吉祥寺ほか全国順次ロードショー!
「半分はわたしに、半分はあなたに」
それが持続可能な生活と自然を守るための信条
3年の歳月と400時間の撮影から生み出さえた人間の、自然の、存在の、崇高さと
美しさに満ちた悲しくも感動的な希望の物語
茶色の野を歩く人が米粒のような大きさで登場するところから映画は始まる。カメラの位置が遠景から近づくと、それが黄色のブラウス、茶色の長いスカート、緑のスカーフという衣裳の女性であることがわかる。次のショットで、周囲の自然と調和した色調の服装の彼女にカメラがさらに近く寄る。彼女が山の岩に被さった石の蓋を開けてミツバチを育てている作業が捕らえられ、養蜂作業中の彼女は素手で、顔にマスクもしていないので、かなり熟練した養蜂者であることが想像できる。
村の家に帰った彼女(ハティジェ)は老母と二人暮らしで、電気も水道もない生活であることは夜の闇の中のロウソクの灯や、雪を溶かして飲料水にすることから解る。へこんだアルミニウムの皿の真ん中に穴をあけて、棒に結びつけて屋外に立てることで、電波を辛うじて引き入れてトランジスターラジオを聞くことができる。
自宅の近くでも彼女はミツバチを育てていて、そこでは顔にマスクをするが、相変わらず素手である。蜂蜜を集めて瓶詰めにして汽車に乗り、彼女は北マケドニアの首都スコピエの市場にそれを売りに行き、そこで得た金でバナナを買って老母に食べさせる。外界から閉ざされた彼女の生活を一変させるのが、放牧の牛の群を引きつれて、キャンピング・カーで登場した子供7人の夫婦の一家である。彼らの会話を聞いて老母は「あの人たちはトルコ人だね」と言う。
キャンピング・カーをハティジェの家の隣に停め、隣人となった彼らは、牛の世話をしながら、ハティジェに養蜂の方法を習う。子供たちは彼女になつき、彼女も孤独を癒される。しかし仲買人にそそのかされた隣人の男は、ハティジェが固く守っている「蜂蜜の半分は自分に、半分は蜂に残す」という鉄則を無視してすべて収穫してしまう。そのせいで、男の蜂どころか、ハティジェの蜂まで全滅してしまう。絶望した彼女に老母は「彼らに罰が当たるように」と言うほか、何もできない。しかし、不思議なことにほどなく男が連れていた牛が50頭も病気になってしまう。そして男一家は残った牛を連れてキャンピング・カーで去っていく。
春になり、山の岩の蓋を開けたハティジェは、ミツバチが飛ぶのを見る。ああ、この山の蜂たちは生き延びたのだとホッとするところで映画は静かに終わる。
ハティジェの身体や顔から発するパワーは忘れ得ぬ印象を残す。1964年生まれと彼女が言う場面があるので、彼女は50代半ばで、盲目の母は85歳。自分が結婚できなかったのは自分が若い頃に求婚された時、両親がその男の申し出を受けなかったからだと、彼女は母に訴える。母は、それは自分ではなくお父さんのせいだと言う。その村ではトルコ系やアルバニア系の少数民族の住民は皆去ってしまい、マケドニア系の住民しかいないことも、キャンピング・カーの男との会話から明かされる。ハティジェの陽に焼けた顔には皺が刻まれ、前歯の一部は欠けている。彼女はスコピエで髪を染める材料を買い、栗色に髪を染め、隣に来た一家と祭に出かけて人々と交わり、笑い、隣の男が作ったブランコに乗る。彼女のシンプルな生活の中の慎ましい喜怒哀楽が次第に観るものに伝染してくる。
思わぬドラマもあり、しかしあまりに淡々と描かれる日常生活の中で、そういったドラマ的出来事も劇的には感じられない。むしろ日常生活の限りない延長の中の一つの挿話という感じで、静かに自然の中に浸っていくのである。
タマラ・コテフスカとリュボミル・ステファノフ共同監督である本作は、3年をかけて撮影された。二人ともマケドニア出身で、コテフスカは1993年、ステファノフは1975年生まれ。(平野共余子さんの文章から引用)
アカデミー賞史上初、国際映画賞・ドキュメンタリー映画賞同時2部門ノミネート
受賞
●サンダンス映画祭(ワールドシネマ部門) グランプリ、審査員特別撮影賞、審査員特別インパクト・フォー・チェンジ賞
●全米映画批評家協会賞 最優秀ノンフィクション賞
●ニューヨーク映画批評家協会賞 最優秀ノンフィクション賞
●ボストン映画批評家協会賞 最優秀ドキュメンタリー賞
●デンヴァー映画批評家協会賞 最優秀ドキュメンタリー賞
●ヴァンクーヴァー映画批評家協会賞 最優秀ドキュメンタリー賞
●放送映画批評家協会賞 最優秀生命主題ドキュメンタリー賞、最優秀第一回ドキュメンタリー監督賞
●国際ドキュメンタリー協会 最優秀撮影賞、パレ・ローレンツ賞
●シネマ・アイ・オナーズ アンフォゲッタブルズ賞
●アテネ国際映画祭 最優秀ドキュメンタリー賞
●バークシャー国際映画祭 審査員賞
●テルアヴィヴ国際ドキュメンタリー映画祭 最優秀国際作品賞
●バルセロナ国際ドキュメンタリー映画祭 最優秀ドキュメンタリー賞
●ミレニアム・ドクス・アゲンスト・グラヴィティ グランプリ、ビドゴシュチ芸術ドキュメンタリー賞、
シレジア・グランプリ、グディニャ市長賞
●モントクレア映画祭 最優秀ドキュメンタリー賞
●ムンバイ映画祭 最優秀作品賞
●サラソータ映画祭 審査員特別賞
●サンクトペテルスブルグ・メッセージ・トゥ・マン映画祭 環境法機構賞、最優秀第一回監督作品賞
●サンパウロ国際映画祭 最優秀ドキュメンタリー賞、批評家賞
●バリャドリッド国際映画祭 最優秀作品賞
●ティビリシ・ドキュメンタリー映画祭 審査員特別賞
●LGBTQエンタテインメント批評家協会賞 最優秀ドキュメンタリー賞
STAFF
監督:リューボ・ステファノブ&タマラ・コテフスカ
2019 / 北マケドニア映画 / トルコ語・マケドニア語・セルビアクロアチア語 / 86分 / 1.85:1
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